月刊「月曜評論」
平平成16年4月号〜「マンスリー・ノート」での当社紹介-3

月曜評論 平成16年6月号

マンスリー・ノート・54
マンション居住者の権利は守られているか(下)
公開ディベートで管理会社の変更を実現

拓殖大学教授藤岡 信勝

修繕積立金の「再値上げ・臨時徴収」が不可避に

 私が居住するマンションAの管理会社C社は、「マンション管理適正化法」に定められた重要事項説明書の配布を三年間にわたって怠ってきた。しかも、私が行ったその指摘に対して、C社は欺瞞的な対応をしたことを前回述べた。これだけで管理会社を変更する十分すぎるほどの理由になる。それに加えて、C社の管理の実態には、私たち入居者として見過ごすことのできない重大な欠陥があった。三月初めに提出された管理費削減協会による簡易診断の報告書によれば、問題は次の二点に集約される。
 第一に、マンションの管理費については、管理会社の変更によって、二十六パーセントの削減が可能であることがわかった。
 第二に、修繕積立金会計について、重大な事実が明らかとなった。マンションAは建築後七年目となるのだが、数年後に予定されている大規模修繕工事の際に、赤字となることが確実な見通しとなったのである。修繕積立金については、各戸からの徴収額を一年前の二月に大幅に増額したばかりであった。それなのに、赤字分を補うために再び増額するか、一時金の徴収が必要になるというのである。
 マンションAの入居時の修繕積立金の負担額は、四十六戸の部屋のスペースによって多少の違いがあるが、私が入居している最も標準的なサイズの場合、月額千二百円だった。これは、かなり低い負担額である。それでことがすめば結構なことだ。ところが、マンションは「十年補修」といって、築後十年に大規模な修繕を行うのが定石となっている。従来通りの低額の積立金のままでいくと、十年補修の時期には、約五千六百万円の不足が生じる計算となることが管理会社C社によって指摘された。
 それでは、なぜ、入居時の修繕積立金について、そのように低い負担額が設定されたのだろうか。福ア剛著『マンション管理費はここまで節約できる』(二〇〇二年、文春文庫PLUS)には、次のような記述がある。
 「ほとんどのマンションでは、販売時に分譲業者が売りやすくするために修繕積立金を低く設定しています。管理費の高い物件は敬遠されるためです。毎月支払うお金ですから、住宅ローンのことも考えると、管理費は安いほうがいいと思ってしまいがちです。修繕積立金が低く設定されていると、いずれ10年ほどで大規模修繕をするときになって工事費が不足することになります。そうなると、工事規模により数十万円〜数百万円単位で一時金を各戸が負担せざるを得なくなります」(36ページ)
 まさにこの指摘通りのことが、わがマンションでも起こっていたのである。そこで、巨額な一時金の負担を避けるため、あらかじめ修繕積立金の月額を増やして対応しようとしたのが値上げの趣旨であった。昨年二月に開かれた管理組合の臨時総会で、出席者の四分の三以上の賛成で値上げを決めたのだった。私の場合、修繕積立金の月額は、千二百円から一挙に一万七千八百九十円に引き上げられた。通常の管理費と合わせて、月額二万九千八百九十円の負担となった。
 この値上げは、もちろん、管理会社C社の提案と主導によって決定したものである。私たち入居者は、C社の説明を受けて値上げを承認した。やむを得ないことだった。ところが、この値上げによっても、管理会社の計画している大規模修繕を実施すると赤字に転落することが目に見えている、というのが管理費削減協会による試算の結果だったのである。

管理会社変更のための行動を起こすことを決意

 数年後に修繕積立金会計が破綻するというような事態が起こったのはなぜだろうか。管理会社C社が入居者に配布した年次別修繕計画表がある。タテに工事の種類を書き、ヨコに年次を書いてクロスさせた一覧表である。まず考えられるのは、この計画書が全くずさんなものだという可能性である。ひょっとしたら、こうした計画は、私たちの居住するマンションの個別の事情に即して立案したものではなく、同じような規模のマンションの修理のパタンを当てはめてつくった作文なのかも知れない。いや、そうであるに違いない。
 管理会社C社は、まさか右の簡易診断の結果を予想したのではあるまいが、私の要求に応じて三月末に重要事項説明書を持参した際に、頼みもしないのに、同社の部長が「今のところ、このように考えています」として、新しい修繕計画の一覧表を私に手渡した。それは、従来のものとは形式が全く異なり、私にはよく意味が読みとれないものだったのだが、表の下に備考欄があり、そこには、次のようなことが書かれてあった。(引用文中の/は改行箇所を示す)
 「大規模修繕は一般的には10年と言われておりますが、最近の物件は12から15年まで伸ばしても大丈夫かと思われます。平均17年[このあたり意味と脈絡が不明ー引用者]/一般的に修繕費用といたしましては1戸当り80〜100万円といわれております。当物件は管理室あわせて47戸ですので約4000万位かと思われます。/初回大規模修繕終了後、資金計画の見直し(一時金の徴収、積立金の値上げ)が必要になります。」この備考欄の記述から、次のことが読みとれる。

 第一に、管理会社は、修繕積立金会計が赤字になることに気付き、「十年補修」を先延ばしして赤字が顕在化することを避ける作戦に出たらしいこと。
 第二に、それでも、初回大規模修繕終了後、「一時金の徴収、修繕積立金の値上げ」が必要になることを認めざるを得ないこと。
 第三に、管理会社の発想は、私たちのマンションについての個別の診断にもとづくものではなく、あくまで一般的なパタンを当てはめようとしていること。

 ここには、重大な問題がある。まず、赤字が顕在化するのを糊塗するため「十年補修」の時期を、個別の診断によらず一般論で遅らせると、マンションの建物が劣化する危険がある。一級建築士の資格をもつ管理費削減協会の担当者の話によれば、マンションの建物の診断結果は、当然のことながら個々のマンションによってすべて異なっているという。例えて言えば、人間の体の健康診断のようなもので、体を診察せずに「四十代男性」についての平均的なデータから診断書をつくられてはたまったものではない。しかも、それでも、いずれ、「一時金の徴収、修繕積立金の値上げ」が必要になるという事実は避けられないというのである。
 こんな管理会社に任せておいたのでは、私たちのマンションはボロボロにされるかもしれない。あるいはまた、ずさんな計画にもとづき、必要もない修繕費を負担させられる可能性もある。関心を持たなければ「知らぬが仏」で過ぎていたかもしれないが、事情を知ってしまった以上、アクションを起こさないわけにはいかない。

賛同者十人で臨時総会の招集と説明会の開催を決定

 私は、同じ立場にあるHさんと相談し、マンションの居住者のうち、元理事長さんや隣近所の知り合いの人たち十人ほどの方々に手分けして呼びかけ、拙宅に集まってもらった。私とHさんがこもごも事情を話し、管理費削減協会の担当者の説明も受け、管理会社変更の問題を組合員有志として発議することを提案した。
 その結果、管理規約に基づき十人の署名をもって、管理組合の理事長に対し「管理会社の変更」を議題とする臨時総会の招集を要求することとした。あわせて、説明会を開催することも決めた。
 説明会の案内文書に添付した「マンション管理会社変更の趣意書」は、次のような文面だった。(一部、固有名詞を匿名化した)

《1.管理会社は、組合員(区分所有者)のために仕事をしているとは限りません

 マンションの管理費や修繕積立金が不当に高く徴収され、これが管理会社の利益の源泉となる傾向にあることが指摘され社会的な問題となっています。管理会社は、組合員(区分所有者)のために仕事をしているとは限らないのです。

 2.隣接のマンションで「管理費31パーセントの削減」を実現しました

 署名人のうち、FとHは、たまたま、当マンションに隣接するマンションの管理組合の理事を仰せつかっておりますが、管理会社を変更することで、「管理費31パーセントの削減」を実現することに成功しました。

 3.エレベーター工事の見積もりは、1000万円から500万円にダウンしました

 そればかりではありません。管理会社を変更してみると、今までの管理会社の修繕計画では、1000万円かかるとして計上されていたエレベーターの大規模修理の予算が、実際は、500万円ですむことがわかりました。しかも、これは同じエレベーター会社による、同じ内容の工事であることにご注目下さい。

 4.管理会社の変更で管理の質は向上しています

 さらに、管理費を削減したにもかかわらず、管理の質は今までの管理会社よりも格段に向上し、組合員から喜ばれています。いま、管理組合では、毎月の管理費の値下げを検討しています。

 5.私たちのマンションも問題をかかえています

 隣のマンションがかかえていた問題は、私たちのマンションにもあることがわかりました。当マンションの修繕積立金は、昨年2月の臨時総会で大幅に値上げしたばかりですが、管理会社の計画では、さらに一時金の徴収や修繕積立金の値上げが予定されています。そんなことが本当に必要なのでしょうか。

 6.管理会社の変更により問題を解決したい

 私たちは、修繕積立金の再度の値上げにも、一時金の徴収にも反対です。さらに実態を知るためにも、管理会社の変更を提案します。

 7.従来の管理会社にも説明していただきます

  四月二十日・二十一日の説明会には、新規にお願いすることを提案する管理会社だけでなく、従来の管理会社も招き、説明していただきます。判断するのは私たち区分所有者です。また、従来の管理会社の仕事ぶりの評価と今回の提案は直接関係がないことも明記しておきます。

 8.今の時期に取り組む必要があります

 このままでは、従来の管理会社との契約は、来る6月15日に更新され、さらにそれからの1年間、管理会社は変更できなくなります。管理委託契約書により、従来の管理会社との契約を変更するためには、2ヶ月前の4月14日までに通告する必要がありました。さらに、新旧管理会社間の引き継ぎの期間を計算すると、5月9日までに臨時総会を開く必要があるわけです。

 私たちの提案は、現在の理事会と何ら対立する立場に立つものではありません。現在の理事会は4月1日で正式な任期が切れていることもふまえ、規約に基づいて臨時総会を開催して、よりよいマンションの環境を作り出そうとするものです。ご理解、ご協力、ご参加を切にお願い申し上げます。》

従来の管理会社も出席して公開ディベートを開催

 この説明会の計画で最も肝心なポイントは、この場に、新たに管理会社として契約することを提案する管理費削減協会だけでなく、従来の管理会社C社の出席も要請したことである。C社にも言い分があるかもしれないし、入居者の側からもC社に質問したいことがたくさんある。また、一方の側からだけ話を聞くというのもフェアーではない。どちらの管理会社にも公平に発言の機会を与えるべきだ。
 そもそも、私たちが管理会社を変更しようとするのは、それ自体が目的ではない。要はマンションの管理の質が向上すればよいのである。もし、従来の管理会社C社が、管理費削減協会よりももっと良い条件を提示し、私たちを納得させることができれば、引き続きC社に管理を委託する結果になっても少しも構わない。私たちには何も管理費削減協会に特別の義理があるわけではない。どちらにしても、両方の管理会社に出席してもらうことは、問題の性格をよく知る上で大きな助けになるに違いない。
 この説明会は、契約の獲得をめざす二つの業者間の公開ディベートであり、顧客であるマンション居住者の面前で行われるコンペの性格をもつ。本来、業者選択の主体であるべきマンションの区分所有者が、初めて正当な位置に座を占める場でもある。管理費削減協会は、この説明会の企画の趣旨をよく理解し、直ちに積極的に賛成してくれた。
 問題は、管理会社をはずされる可能性のあるC社のほうである。はたして出席してくれるだろうか。もしC社が出席すれば、問題の構造がより鮮明になって私たち入居者の理解を深めるのに好都合である。もしC社が出席しないとしたら、C社は契約の可能性を放棄したことになり、管理会社の変更は説明会の時点でほぼ既定の事実となる。管理会社の変更を推進する立場からいうと、「どちらに転んでもシメタ!」という状況である。もちろん、C社が出席してくれるほうが望ましいことは言うまでもない。私は署名人を代表してC社に出席を要請する連絡をおこなった。その際、出席しないことも選択肢の一つであることを念のため付け加えた。
 説明会の前日に、C社からは直接の担当者と上司の取締役部長の二人が出席すると伝えてきた。はじめは時間をずらして会社ごとに別々に説明させてほしいと言ってきたが、私が「全国教室ディベート連盟」の初代理事長であること、説明会の運営は厳正・公平に行うこと、出席者に恥をかかせるようなことは絶対にしないこと、などを約束してディベートの形式を了解してもらった。
 契約を競う複数の業者が同席してディベートを行うなど、滅多にない機会であるらしい。管理費削減協会は、新任社員の研修のためディベートの様子を後ろの席で傍聴させてほしいと依頼してきたが、お断りした。それを認めれば、C社にも他の社員の同席を認めねばならない。
 二日にわたる説明会は、まず冒頭で私が十分間ほど経過と趣旨を説明し、次いでC社、管理費削減協会の順に、それぞれ十分間づつ基本的な説明を行う。あとは交互に参加者との質疑の時間に充てることにした。質疑が尽きた場合、または会が二時間を超えた時点で終了とすることとした。説明会を二回行うのは、参加者の便宜のためであり、従って一日目の提示条件を二日目に変更しないことなどのルールも確認した。以下、主要なポイントを列挙する。

 1.管理費の削減については、C社は七パーセント、管理費削減協会は二十五パーセントの削減を提示した。

 2.修繕積立金については、C社は大規模修繕工事の延期などの方法により値上げを行わない案を提示した。管理費削減協会は、管理費会計で削減された資金を修繕積立金会計に繰り入れるとともに、大規模修繕工事自体についても、中間マージンを排し、業者間の競争原理を機能させることで、C社の計画した通りの工事を、その水準を低下させることなく実施することが可能であること、しかもその場合、修繕積立金の負担額の値上げや再徴収がギリギリ回避できることをグラフを示して説明した。

 3.その他、管理のありかたについては、管理費削減協会は情報公開と透明性を強調し、C社は午前九時から午後三時まで、管理人を常駐させることで「資産価値」を高めることを提案した。

 参加者の質疑では、C社がさきに提出していた長期修繕計画の根拠と、それがいとも簡単に変更できるたぐいのものであったことへの疑問が中心となった。C社の計画では将来本当に値上げが必要ないのか、回答は判然としなかった。また、新たに提案してきた「管理人常駐」の費用について、これはむしろ管理費の値上げの要因になるのではないかと懸念されたが、説明は二転三転し、曖昧なままに終始した。ただし、管理費削減協会側にも厳しい質問が、元理事長氏からなされた。これは問題の理解を深めるためにも、説明会が一方的な雰囲気の会にならないためにも非常によかった。
 二つの業者のどちらが真剣に問題を研究し、具体的な根拠をもって提案しているかは誰の目にも明らかだった。説明会の前日、C社は重要事項説明書をお詫び文を添えて全居住者に各戸配布した。私の指摘を結果として全面的に認めたのである。ところが、説明会の席で、各戸配布された資料のうち、「管理委託契約書」に記載されたマンションAの住所が全く間違っていることを参加者の一人が指摘した。C社が管理している別のマンションの契約書と混同したらしい。C社にとっては「万事休す」であった。司会役の私は、「率直に言って不利な立場にあるにもかかわらず、二日にわたり説明会に出席していただいたC社に心からのお礼を申し上げたい」と発言した。C社の側からも、「このように公平に発言の機会を与えられたことに感謝する」という趣旨の言葉があり、説明会を終えた。
  五月九日、マンションAの管理組合の臨時総会が開催された。反対一名、棄権一名を除く圧倒的多数で管理会社の変更が決議された。

 




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