月刊「月曜評論」
平平成16年4月号〜「マンスリー・ノート」での当社紹介-2

月曜評論 平成16年5月号

マンスリー・ノート・53
「重要事項説明書」の配布を怠る管理会社
マンション居住者の権利は守られているか(中)

拓殖大学教授藤岡 信勝

マンションの管理組合が管理会社のいいなりになる構造

 前回は、自由主義史観研究会の事務所として使用するため私が購入したマンションBの理事長になり、偶然も重なって、同マンションの管理会社を変更するに至った経過を書いた。この管理会社変更問題が、私が居住している、隣のマンションAにも飛び火するのは必然のなりゆきだった。
 マンションAでも、その管理をする業者を、「管理費削減協会」という名称の新しい管理会社に変更したいと積極的に動き出したのは、私よりもマンションBの副理事長のHさんだった。話がややこしくなるが、Hさんは私がマンションBの理事長になった時期にいっしょに副理事長になられた方である。Hさんも、マンションAの居住者でありながらマンションBにも部屋を所有しているという点で、私と同じ立場にあった。
 管理会社変更後の管理費削減協会の活動はめざましかったから、HさんはマンションAでも同じ管理会社に管理を依頼すれば大きなメリットがあると考えたのだ。Hさんはご商売をなさっている方だから、当然ながら、私などよりも数字にははるかに明るく、敏感である。Hさんは、マンションAの理事長に話して、管理会社変更の件を取り上げてほしいと依頼した。しかし、女性の理事長は、もう自分たちの任期も終わりなので、この問題は次の理事会で取り上げてもらうか、Hさん自身が取り組んでやってほしい、と返答した。こうして、マンションAでは、理事会が率先して管理会社を変更するコースは道が閉ざされることになった。
 一方、私のほうには、マンションAの今までの管理会社に決定的な不信感を持つに至る事情が発生していた。それは、重要事項説明書の配布にからむ問題である。その経過に入る前に、マンション管理の一般的な実態について述べておきたい。
 マンションの管理組合と管理会社は、契約関係にある。管理組合が管理業務委託の発注者であり、管理会社は受注者ということになる。もし、管理会社の業務の実態が居住者にとって不満足なものであるならば、管理組合としては管理会社をいつでも変更できるはずだ。これはちょうど、一般の消費者がメーカーAの商品が気に入らなければ、メーカーBの商品にいつでも買い換えることができるのと少しも変わらない。
 原則はこの通りなのだが、実態は著しく異なる。多くの場合、主客転倒して、マンションの管理組合は管理会社の言いなりになっている。管理会社がほぼ百パーセント管理組合をコントロールしているといっても過言ではない。どうしてそうなるのか、理由は二つある。
 一つは、マンション居住者は例外的な場合をのぞき、マンション管理についてはズブの素人で、何の専門的知識も有していない、ということがある。また、かりに多少の知識を有する人が居住者の中にいても、その人は自らの本業を抱えているのだから、マンション管理に専念することはできない。従って、管理会社が言うことについて、それを否定する知識も材料もないままに従うしかないというのが実情である。
 もう一つ、もっと根本的な理由は、マンション居住者のマンション管理に対する関心が薄く、管理組合もほとんど機能していないケースがざらにあるということだ。どこのマンションでもそうだが、入居者はまったく偶然に同じマンションにすむことになった人間のあつまりである。いわば烏合の衆にすぎない。だから、そもそもマンションの管理組合が何のためにあるのか、なぜそんな面倒な組織を運営しなければならないのかピンと来ないというのが、多くの入居者の実態である。ほかならぬ、私自身がそうだった。だから、進んでマンションの管理組合の役員を引き受けようとする酔狂な人など滅多にいるはずもなく、みんな回り番で当たった時だけ、いやいやながら最低限の義務をこなしているというのが偽らざる実情である。
 その結果、マンションの管理会社は、管理費を不当に高額に設定したり、必要もない修繕工事を発注したり、高率の中間マージンを取ったりすることができる。私は、マンションBの管理会社変更問題に関わったことから週刊誌や経済誌の記事を調べて驚いたのだが、こうした不満やトラブルが続発し、かくれた社会問題にすらなっていたのである。

管理業者に義務を課し、所有者の権利を保護する「マン管法」

  そこで、マンション居住者の権利を保護することを目的とした法律を整備する必要が指摘され、遅まきながら、「マンション管理の適正化の推進に関する法律」が制定された。この法律は、平成十二年十二月一日に衆議院本会議で可決成立し、翌平成十三年八月一日から施行された。
 マンションの区分所有権については、昭和三十七年に施行された「建物の区分所有等に関する法律」があるものの、マンション管理について定めた法律としてはこれが最初であり、「マンション」という言葉を使った法律もこれが初めてである。なお、この法律は、短く「マンション管理適正化法」と呼ばれているが、所管の国土交通省に電話したとき、担当者は「マンカンホウ関係ですね」という言い方をしていたので、今後はその略称を借用して「マン管法」と呼ぶことにする。
 さて、管理費削減協会は、一月二十九日のマンションBの臨時総会で管理会社変更の件が満場一致で可決されたあと、ほとんど日をおかずに、マンションBの区分所有者全員を対象に、委託契約に関する重要事項の説明会を開催した。これは、マン管法第七十二条に次のように定められていることに基づくものである。以下の条文の引用で、文脈上拙論の論旨に直接関係のない( )の中の注記的な部分は、適宜省略する。

 第七十二条 マンション管理業者は、管理組合から管理事務の委託を受けることを内容とする契約(以下「管理受託契約」という。)を締結しようとするとき(次項に規定するときを除く。)は、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより説明会を開催し、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等及び当該管理組合の管理者等に対し、管理業務主任者をして、管理受託契約の内容及びその履行に関する事項であって国土交通省令で定めるもの(以下「重要事項」という。)について説明をさせなければならない。この場合において、マンション管理業者は、当該説明会の日の一週間前までに、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等及び当該管理組合の管理者等の全員に対し、重要事項並びに説明会の日時及び場所を記載した書面を交付しなければならない。

 日程を調べてみると、管理費削減協会は、二月五日付けで、(一週間後の)二月十二日に場所と時間を決めて重要事項の説明会を開くことの通知と、六ページの重要事項説明書を区分所有者全員に配布した。そして、説明会の翌日の十三日、別表を含めて九ページにわたる管理委託契約書を両者の間で締結した。契約期間は、三月一日から翌年二月二十八日までの一年間である。
 以上は、新規契約の場合の手続きであるが、マン管法は、同一条件による更新の場合の手続きも、次のように定めている。

 第七十二条 2 マンション管理業者は、従前の管理受託契約と同一の条件で管理組合との管理受託契約を更新しようとするときは、あらかじめ、当該管理組合を構成するマンションの区分所有者等全員に対し、重要事項を記載した書面を交付しなければならない。

 この第2項を読むと、契約条件が少しでも変更される場合は、新規の契約と同じように、第1項に従って説明会を開かなければならないことがわかる。同一の契約条件の場合に限り、重要事項説明書の交付だけでよく、説明会開催の義務は免除されている。

三回にわたって重要事項の配布を怠っていた管理会社

 以上のことを、管理組合の理事長という立場上、否応なく「学習」していた私は、マンションAについて、奇妙なことに気付いた。私が居住するマンションAの管理会社は、一度も重要事項説明書を配布したことがないのである。
 マンションAの管理会社は、六年前の入居当初は、マンションを建てた建設会社の子会社があたっていた。しかし、その会社は数年後に倒産したため、別の管理会社にたらい回しされ、その管理会社(「C社」とよぶことにしよう)が担当して今日に至っている。ディベロッパー系の最初の管理会社も、その次のC社も、私たち区分所有者が主体的に選んだ会社ではない。親を亡くした子どもが親戚の家にたらい回しで預けられてきたようなものである。
 それでも、管理会社には法律を守る義務がある。はじめの頃は法律がなかったのだから、管理会社に義務はなかったとは言える。しかし、先にのべたように、マン管法は平成十三年の八月一日に施行されている。マンションAの管理組合と管理会社との委託契約の契約年度は六月十五日から翌年の六月十四日までであるから、C社は少なくとも、平成十四年の三月までに最初の重要事項説明会を開催し、平成十五年と平成十六年の同じ時期に、重要事項説明書を全区分所有者に交付しなけらばならなかったはずである。
 実に三年間にわたって、C社は法律違反を犯し、契約の本来の主体である私たちマンションAの区分所有者は、どんな管理会社と、どのような条件で契約しているのかという基本的な情報を知らされないままにこの三年間を過ごしてきたことになる。
 私は、三月二十九日、別の用事でC社に電話をし、担当者に翌日マンションに来るよう依頼した。その際、ついでにこの問題を指摘し、重要事項説明書を持参するよう求めた。翌日、C社は何事かを感じ取ったらしく、担当者のほかに上司の取締役部長が同道してやってきた。そして、部長は、私に対し、次の二点を主張した。
 〈1〉重要事項説明書は、管理組合の理事長に交付し、同理事長の了解を得て、区分所有者への配布を省略した。
 〈2〉区分所有者への重要事項説明書の配布を省略したことは、法律に違反するとは言えない。マン管法第72条3項に次のように規定されていることから、配布の省略は可能である。

 第七十二条 3 前項の場合において当該管理組合に管理者等が置かれているときは、マンション管理業者は、当該管理者等に対し、管理業務主任者をして、重要事項について、これを記載した書面を交付して説明をさせなければならない。

 部長はこの部分のコピーを示し、マンションAの管理組合には「管理者」、すなわち管理組合の「理事長」が置かれているから、理事長に重要事項の説明をしたので、区分所有者には配布しなくてもよいのだ、というのである。そして、その解釈が正当なものであることは、3項の冒頭に、「前項の場合において」と書いてあることから裏付けられるというのである。
 私は、その法律解釈は間違いであること、いずれ国土交通省に確かめることを伝え、しかし、その場では論争することをひかえた。

誤った法律解釈とごまかしに頼る管理会社

 ここで、論点を改めて整理すると、マン管法第72条についての私の解釈は、

 《1.第2項によって、マンション管理業者は、重要事項説明書を、区分所有者全員に交付しなければならない。
 2.それに加えて、第3項の規定によって、マンション管理組合に管理者、すなわち理事長が置かれているときは、その理事長に対し、重要事項説明書を交付するだけではなく、口頭で説明をしなければならない。》

 というものである。それに対し、C社の部長の解釈は、第3項の冒頭にある「前項の場合において」という文言を根拠に、マンション管理組合に管理者=理事長が置かれているときは、その理事長に説明すれば、個々の区分所有者への交付はしなくてもよい、というものである。つまり、右記の2.が実行されていれば、1.の義務は免除されるというのである。そんな法律の読み方は、決して成り立たない。
 第一に、もし、法律でいったん規定した義務が、後の規定によって免除されるなら、法律の文言にそのように明示するか、「前項の規定にかかわらず」などの、逆接の言葉が現れなければならない。部長が言及した「前項の場合において」という文言は、区分所有者全員への重要事項説明書の交付義務を免除するためではなく、単に前項の言葉を繰り返すことを省略するために用いられたものに過ぎない。
 第二に、常識で考えても、理事長に説明したから区分所有者へは契約についての情報を何も与えなくてよい、などという規定を法律で行うはずがない。事柄の最も根源にあるのは、あくまで区分所有者個々人の所有権である。
 私は、念のため、国土交通省総合政策局不動産課(担当、沼田氏、松井氏)に電話で問い合わせ、私の解釈で全く間違っていないことを確認した。部長の解釈を紹介したところ、そんな法律の読み方はない、と一笑に付された。さらに、いくつかの法律注釈書でも同じことを確認した。
 これははなはだ重大な事態である。もし、C社の部長が、私に提示した法律の読み方を本当に信じていたとしたら、その管理会社の管理能力に根本的な疑問を持たざるを得ない。また、もし部長が自社の非を認めたくなくて、私への説明でごまかせると考えたとしたら、顧客に対する重大な背信行為になる。
 さらに、部長は、理事長に了解を得ているという趣旨の発言をした。私は、これも不審に思い、後日、理事長にお目にかかった際、このことを確かめた。理事長は、「重要事項説明書は、読んでおいてほしいと渡された。区分所有者への交付の省略などの話をしたことはない」と答えた。
 このことから、C社はマン管法第七十二条2項の全区分所有者への重要事項説明書の交付を怠っていたばかりでなく、3項の管理組合理事長に対する口頭の説明義務をもさぼっていたことが暴露された。
 こうしたことも機縁の一つとなって、今、マンションAではC社から管理費削減協会への管理会社変更の動きが、本稿の連載と同時進行で進んでいる。(以下、次号)

 




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