月刊「月曜評論」
平平成16年4月号〜「マンスリー・ノート」での当社紹介-1

月曜評論 平成16年4月号

マンスリー・ノート・52
マンション居住者の権利は守られているか(上)
「管理費31%削減」と管理会社の変更を実現させた経験から

拓殖大学教授藤岡 信勝

古いマンションの管理組合理事長になる 

 私は、東京都文京区の、あるマンションに住んでいる。それは全国に四五〇万戸あるマンションの一つであり、私は、全国一二〇〇万人のマンション居住者の一人ということになる。
 私が今のマンションに引っ越してきたのは、七年前の平成九年のことだ。当時は歴史教科書問題で急に忙しくなり、横浜のはずれにある国家公務員の合同宿舎から、片道一時間四十分も時間をかけて通勤するのがはなはだ苦痛になってきた時期であった。それで、知人の勧めもあり、ある日自宅にかかってきた勧誘の電話に乗って、思い切って購入することにしたのだ。マンションは職場にも近く、山手線の主要駅にはどこでも三十分以内に行ける位置にある。管理組合の理事は抽選で順番が決められたが、私は入居後八年目で当たることになっており、マンションの管理について、特別の不満も関心も持たなかった。
 三年前、私が住むマンションの建物の隣にある、別のマンションの一室が、かなり安い値段で売りに出ているのを知った。この時は、自由主義史観研究会の新しい事務所を探している時期だったので、私は北海道の姉から、退職金で返済する条件で借金をし、これを購入した。こちらの方は、昭和四十一年(一九六六年)の建築だから、今年で築三十八年ということになる。かなり老朽化した建物だが、自宅の隣に事務所がある便利さから、偶然ながらよい買い物だったと満足していた。
 ところが、しばらくして、私は、新たに購入した方のマンションの管理組合の理事長にされてしまった。話がややこしいので、私が自宅として入居しているマンションを、以下、「マンションA」、その隣にあって、自由主義史観研究会の事務所として使用しているマンションを、「マンションB」とよぶことにする。
 私がマンションBを購入してまもなく、その管理組合の理事の方々がやってきて、何としても私に理事長を引き受けてくれというのである。聞いてみると、マンションBの入居者は、はじめからこのマンションに住みついている方々が結構多いらしい。今ではかなりのお年寄りになっている。今まで長く理事長をされてきた方は、東大経済学部を卒業して事業をされてきた人だが、自宅が遠方にあること、お年であることの理由で、相対的にまだ若い私に理事長をやってほしいというのである。ここから、今まで経験したことのない領域で、思わぬ事態に巻き込まれることになったのだ。
 私はマンションBの管理組合の理事長になったものの、実際の仕事は業務を委託している管理会社がやってくれるものと考え、たいした負担ではないとタカをくくっていた。全ては従前の慣行どおりに進んでいけばよいと考えていた。
 ある日、管理会社が窓枠サッシ化の大規模修繕工事を提案してきた。なにしろ年数が経っているので、鉄製の窓枠の建て付けが悪い。それに、枠にガラスを接着させている漆喰がひび割れている。もし、何かのはずみにガラスが枠からはずれて落下したら、下の道路を歩行している人にけがをさせるか、最悪の場合は死亡させるかもしれない。そうなったら、莫大な補償金を払わなければならない。そこで、この際、修繕積立金を使って、窓をサッシに取り替えてはどうかというのである。

管理会社は誰のために仕事をしているのか

 私は事情がわからないので、他の理事の方々の意見をうかがうと、管理会社の提案はもっともだという。理事の中には、自分も前から危険を感じていたという方もいた。そこで、私は、基本的にOKの返事を管理会社に行い、念のため、前理事長にもその趣旨を伝えた。ところが、前理事長は、慎重派だった。本当に窓枠が老朽化して危険な状態にあるのか、よく調べた方がいい。ビル全体が老朽化していて、今後どんな修理が必要になるかわからない。そのために、なるべく修繕費は使わずにとっておいたほうが得策だ、というのである。
 異論が出た以上、これは徹底的に調査するほかはない。私は管理会社に命じて、一階の一つの窓を犠牲にして、調査のための実験を行わせた。漆喰部分をドリルで破砕し、ガラスがどのように鉄製の窓枠に取り付けられているのか、実地に調べることにしたのである。
 結果は明瞭だった。窓枠には十分な突起部分があるだけでなく、四方に合計九カ所、鉄のクギでガラスが窓枠にしっかりと固定されていた。その上に施されている漆喰はひび割れているものの、これでは窓枠からガラスが離脱する事故など起こるはずがない。私は日本の技術が、基本的に信頼出来るものであることを改めて感じ取ることができた。
 信頼出来ないのは、管理会社の方だ。三千万円にのぼる工事費を要する窓枠取り替え工事の提案とは、はたして何だったのか。要するに、居住者のためよりも、管理会社が儲けるための工事の提案ではなかったのかという疑念がぬぐえない。管理会社任せにすると、大変なことになる、という痛切な体験だった。その後、管理組合の総会の場などで居住者の話をいろいろ聞いてみると、管理会社に対する不満がかなり鬱積していることがわかった。
 ある日、マンションBの居住者理事の一人で、まだ若いビジネスマンの方が、一つの情報をもたらしてくれた。「管理費削減協会」(堀栄真代表・(電)03-3810-0777)という名前の会社があり、マンションの管理費が不当に高く設定されていないかどうかを査定してくれるというのである。そして、管理組合の代理人として管理会社と値下げを交渉し、その実績の半分を成功報酬として一回だけ支払えばよい、という条件である。これをアドバイザリー契約という。悪い話ではない。かりに、結果として管理費が適正なものであり、値下げがゼロなら、コンサルタント料も一円も払わなくてよいのである。
 私は、管理費削減協会の人に会うことにした。中心となっている二人の男性は、いずれもまだ三十歳代で、代表は理科系の大学院修士課程卒業の学歴があり、二人とも一級建築士の資格を持つ、しっかりした人物だった。マンション管理のずさんさや、管理会社の不当な利権が横行している現状に義憤を感じ、二人でベンチャービジネスを立ち上げたという。マンションBは、昨年創立したばかりの彼らの会社の、三件目のお客だった。
 その意気やよし、と思ったが、意気に感じて任せてしまうと、またしても失敗するかも知れない。ことは慎重を要する。前理事長は、この会社が本当に信用できるか確かめるため、会社の所在地を訪ねて実地検証までした。契約の仕組みを聞いてみると、誠によく考え抜かれた合理的な組み立てになっている。値下げ交渉が不調に終わっても、当方が負うリスクは限りなくゼロに近い。マンションBの理事会は、管理費削減協会とアドバイザリー契約を結ぶことにした。

管理会社を変えてわかったマンション管理のからくりと問題点

 結果は劇的だった。マンションBの従来の管理会社は、代理人の管理費削減協会との交渉で、管理費の七パーセントの値下げを申し出た。ということは、この七パーセント分、従来の管理会社は、私たちマンションBの区分所有者から不当に高く管理費を徴収していたことになる。それに対して、管理費削減協会の査定では、三十一パーセントの削減が可能である。どうするか。私たちとしては、当然、三十一パーセントの削減を実現してほしい。そこで、再交渉した結果、ついに、従来の管理会社は、管理業務を放棄することになった。三十一パーセントも削減したら、会社としてやっていけないということである。私たちは、管理組合の臨時総会を開き、管理会社を従来のものから、管理費削減協会に変更する決議を満場一致で行った。私たちと管理費削減協会との関係は、アドバイザリー契約から管理委託契約に発展したのである。
 では、この「三十一パーセントの削減」とは、何を意味するのか。マンションの管理には、清掃、警備、エレベーター管理、植栽など、たくさんの業種の業者の関与が必要になる。そういう業者をわれわれ一般入居者は知らないし、いちいち探すのも煩わしい。そこで、必然的に業者の選定と費用を含めて、管理会社にすべてお任せ、という形になる。ところが、従来の管理会社は、この仲介にあたってマージンを上乗せする。それが削減された三十一パーセントの正体である。従来の管理会社は、このマージンによって社員を食わせていたのである。
 変更のポイントは次の通りである。従来の管理会社との関係では、個々の業者は、まず管理会社と契約を結び、その管理会社と管理組合とが契約を結ぶという二重の関係にあった。これを、管理会社を経由せずに、個々の業者と管理組合が直接契約を結ぶ関係に変更した。こうすることによって、管理会社によるマージンは原理的に発生しないことになる。管理費削減協会は、コアの管理業務だけを請け負う業者の一つにすぎない。それでやっていける新しいビジネスモデルを、彼らは開発したことになる。
 これは、たとえてみれば、従来、生産者から消費者まで何段階にもわたって仲買い業者が介在し、それらの中間マージンが価格に上乗せされていた商品を、生産者から消費者に直接手渡されるルートを開発することで価格を安くすることができる「流通革命」の論理と同じものである。
 マンションBの管理会社変更の過程で、おもしろいことがあった。従来の管理会社は、取引関係にあった個々の業者と私たちのサイドが接触するのを拒否した。ところが、エレベーターの会社が、管理費削減協会に接触して来たのだ。お客様と直接に話をしたいというのである。その結果、管理費削減協会の提示した額通りで、同じ業者に引き続きエレベーターの管理を依頼することになった。そして、エレベーターの補修費が従来の管理会社経由の時は一千万円だったのに、直接契約に変更したら、五百万円にまで下ってしまった。驚くべきことだ。管理会社がマンション入居者の金を抜き取るカラクリが、これでよく分った。
 そればかりではない。エレベーターの駆動部分が雨ざらしになっているなどの問題点がみつかった。業者としては再三、問題点を管理会社に指摘してきたが、無視され続けたのだという。他にも、水道水を屋上に上げる揚水設備など、さまざまな欠陥が、管理会社を変えることで初めて見つかった。しかも、居住者の間ではこれらの兆候にすでに気づかれていた。こうした基本的な問題を放置、先送りしておきながら、三千万円の窓枠サッシ化の提案をする管理会社の神経とは何なのか、あらためて鳥肌の立つ思いを禁じ得ないのである。管理費削減協会は、マンションBの区分所有者全員を対象に、契約に関する重要事項の説明会を開催した。これは、根拠となる法律があって、新規契約をする業者に義務づけられているものであるという。これらの法律が整備されたのは、ごく最近のことに属する。平成十二年の十二月に国会を通過し、平成十三年の八月から施行された「マンション管理の適正化の推進に関する法律」第七十二条には、管理業者に、「あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより説明会を開催」しなければならないと定められている。
 ところが、この条文の第二項にからんで、問題は俄然マンションAにも飛び火することになった。(以下、次号)

 




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